異文化ガイド

異文化について、英語、フランス語について書いています。フランス、ベルギーで15年以上暮らし、出会った人、見聞きしたこと、考えたこと。

2013年12月

20年くらい前の話になりますが、まだ日本に住んでいて、フランス語の夏期講習のために、ランスというフランスの町に滞在していた時のこと。


ベルギー人の18歳くらいの女の子と親しくなりました。彼女はベルギーのオランダ語圏に住んでいるとのことで、やはりフランス語の勉強のためにランスに来ていました。


かといって、彼女は、フランスが好きというわけではありませんでした。


「ベルギーをフランスの一部だと思ってる外国人がいるからいやになる。」


なるほど。大国に隣にある小国の悲哀でしょうか。イギリスの隣のアイルランド、オーストラリアの隣のニュージーランド‥


「『フライドポテト』はベルギーの発明なのよ。それを、アメリカ人は『フレンチポテト』と呼ぶんだから。」


この辺のベルギー人の気持ちがわかっていないと、お世辞を言おうとしてフランス文化を褒め、ベルギーの人にソッポを向かれるということになります。


マンガ『タンタン』も『スマーフ』もベルギー生まれ。シャンソン歌手では、ジャックブレル。詩人ならアンリミショー。画家のマグリットやヴァンドンゲン。メグレ警視のシリーズで有名な作家シムノン。


フランスでは、「いいフランス人は皆ベルギー人だ」という言い方があるそうです。「ああ、あの人もベルギー人なのか」と、フランス人でさえ、新たに発見することがあるのでしょう。


それに、隣り合わせた二つの国は、確かにずいぶん違っているのです。


どんなところが違っているのかは、また今度。

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久々でキートンの長編を見ました。DVDですが。


子どもの頃に、キートンもチャップリンも、長編はほとんど見ているので、『カメラマン』も、見たことがあるはずです。それでもやはり、久々に見ると、とても新鮮な体験でした。


彼の顔と、無表情の表情は、いつでも覚えていたけれど、彼の繊細さに、私は気づいていませんでした。


この作品は1928年公開、キートンがMGMと契約した年です。


好きな女の子にどんなに恋焦がれているか、おセンチなことは何一つ言わず、眉毛一つ動かさずに、見る者に納得させてしまう。


例えば、彼女から電話がかかってくるシーン。


彼は朝から身支度をして部屋で電話を待っています。当時のこととて、アパートの彼の部屋に電話があるわけではありません。電話が鳴る度に、アパートの上にある自分の部屋から、一階にある電話のところまで駆け下りるわけです。その時カメラは、三階、二階、一階‥と続く階段を断面図のように捉え、観客はそこを次々に駆け下りて行くキートンを見ることになります。階段の長さと、キートンの走り方、転び方、自分への電話ではないと知って、またトボトボと階段を上がる姿によって、恋する心が見える。


やっとお目当ての女性から電話がかかってきて、「一緒に散歩しましょう」と言われるなり、キートンはアパートを飛び出します。彼女はまだ話している途中なのに。


電話口で話している彼女と、街の中を走って行く彼の姿が交互に映される。彼女がようやく返事の無いことに気づき、「もしもし、もしもし?」と言っているところにキートンがたどり着く。相変わらず眉毛一つ動かさずに。


走るキートン。素敵な映像です。オリンピック選手よりも早く見えてしまう。疾走という言葉がふさわしい。


説明の無さ。ポン、ポンとシーンを置いて行くことによって生まれるリリシズム。


私は、チャップリンもキートンも好きですが、異なる二人の喜劇王をたとえて言えば、チャップリンが小説家であるなら、キートンは詩人なのかもしれません。


ラストシーン。再び路上の写真屋に戻っていたキートンを、彼女が探しに来る。「あなたのために、みんながパーティーをするのよ。」偶然にも、街はパレードでお祭りぎ。どうやら、それはリンドバーグがニューヨーク-パリ無着陸横断に成功した後のパレードだそうですが、キートンは自分のためのお祭りだと思ってしまったらしい。おぼつかなげに紙吹雪を見ながら、人ごみの中を彼女に引っ張られていく。そのズレ。現実からこぼれ落ちたかのような表情。というか無表情。


キートンの他の作品も、また見たいな、と思わせる一本でした。





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