異文化ガイド

異文化について、英語、フランス語について書いています。フランス、ベルギーで15年以上暮らし、出会った人、見聞きしたこと、考えたこと。

タグ:グリーズマン

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欧州サッカーで優勝を逃したイングランド代表にあまりにも酷い言葉が投げつけられ、イギリス首相は差別を非難。外国人労働者に厳しいジョンソン首相でさえ差別は許さないということですね。


ロンドン警察も動き出し、世界の話題は優勝したイタリアよりむしろイギリスのサッカーファンへ。


ボーダーラインの悪ふざけどころか、人間的に最低な、明らかに逸脱した言葉の暴力。


さて、デンべレ、グリーズマンのビデオに関する最初の記事で、私は「コナミがグリーズマンとの契約を切ったのは当然」だと書きました。


「ゲームをするグリーズマン」の印象は地に落ち、アンバサダーなんてあり得ません。


では、どこまで、いつまで彼らを責めればいいのかと言えば、アンバサダー解任あたりで十分じゃないか。


なぜか。ちょっとフランスの状況を話しましょう。


私は最初にフランスで暮らし始めたころ、学者さんやアーティストぐらいしか親しい友人はいませんでした。彼らから差別的なほのめかしを受けたことはありません。


もちろん、世の中には極右的な「学者」や教養はないが素晴らしい作品を作るアーティストもいます。単に私の周りにはそういう人はいなかったということですね。もっと精神が開けている人たちばかりだったのです。


しかしその後、縁あって(?)、まったく違う世界のフランス人たちと親しくなりました。おかげさまで(?)差別のニュアンスがわかるようになったことは、前記事で書いた通りです。


フランスの格差って、お金だけじゃないんです。

知識とか教育とか教養とか、持ってない人は全部持ってないんです。


そして、教育とか教養を持っている人たちの中には、「持たざる者」を差別する人もいます。


デンべレやグリーズマンは、今やサッカーでこそ世界のトップクラスですが、それ以外では、悪態をついてつかれて転びながらボールを追っていた子ども時代と変わらないのかもしれません。


「フランス人は先に謝らない」という解説をした人もいるようですが、教養のある人なら状況を理解し、もう少しマシな謝罪をしていたでしょう。


グリーズマンは過去に「ブラックフェイス」問題を起こしたこともあり、その時は自分は不器用だが差別の意図はなかったと言っています。


その一方で、中国政府によるウィグル人弾圧に抗議してHuaweiとの高額契約を蹴り、賞賛を受けています。


不器用。

だけど、心が無いわけじゃない。


国際的なスターとなり、多くの人に影響を及ぼす立場となった今、「不器用」じゃすまないということを、彼らはわかっていないのです。


「親の教育」を嘆く人もいますが、多くのサッカー選手のように若くして親の手を離れてからは、所属クラブが教育するべきでしょう。


差別された側としても、こう言って教育してあげるべきじゃないか。


「ゼロから世界トップの座に登りつめた、あなた方の努力と才能に敬意を表します。

迷惑をかけたホテルのスタッフに誠意ある謝罪をしてください。

そして、今後はプライベートでも世界中の子どもたちの模範となる言動を心がけてください。

あなた方のご活躍を今後も楽しみにしていますよ。」と。


度を越した罰は恨みを買うもの。

彼らに対して大きすぎる罰を求めたら、世界からこう思われるのがオチでしょう。


「あいつら、ちょっと突っつくとすぐカッカする。本当は自信なんてないんだな。」と。



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日本では、子どもが「大きな夢を叶えるために」ボールを追う、という言い方をします。


フランスのサッカー少年の中には、


「親を楽にしてやりたいから」


必死になってボールを追う、

そんな子どもたちが一定数います。


その子どもたちは多くの場合、家でも練習場でも差別的なジョークや侮蔑的な罵りにまみれて生きています。自分も言うし、言われるという環境です。


では、なぜその子どもたちは他のことではなくスポーツで名を上げようとするのでしょうか。

スポーツが得意だからとか好きだということも、もちろんあるでしょう。

もうひとつの理由は、スポーツなら出自に関係なく、実力だけでのし上がることができるからです。


デンべレやグリーズマンがどのようにサッカーを志し、どんな苦労をしてきたのか、してこなかったのか私は知りませんが、決して楽なものではなかったはずです。


ヨーロッパでは、「良い家庭」の子どもたちは厳しく言葉遣いをしつけられます。学校でも直されます。


しかし、親にその「教養」がなければ、そして通っている学校区が貧しければ、教えてもらうことはできません。


私は前にも映画「マイフェアレディ」について書いたことがあります。

汚い言葉を使っている貧しい花売り娘が、言語学者に言葉遣いを直されて社交界デビューする話です。

教授が連れて行った競馬場で、興奮しすぎて「お里が出てしまう」エピソードもあります。


デンべレはセネガルの血を引いているということで、差別の対象となることは日本人にもわかりやすいでしょう。


グリーズマンは白人じゃないか、と思われるかもしれませんが、明らかにフランスの苗字ではありませんね。(因みに自身はグリエズマンと発音すると言っているようです。)


日本のウィキにはドイツ系とあります。確かにそうなのでしょうが、フランス語のウィキを見ると、もっと詳しいことが書いてあります。


お父さんは、国籍はドイツですが、欧州で伝統的にノマドとして暮らしていた民族の出身です。サッカー選手だった母方の祖父は、ポルトガルからの移民です。


おまけにグリーズマンは身長が足りないというので、何度もプロ試験をはじかれています。


ふたりとも、理不尽な差別がどんなものか身をもって知っている人たち。


「だったら余計に言うなよ!」と言いたいところでもありますが、彼らは聖人でもないし政治家でもないんだよね。 


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デンベレとグリーズマンのビデオでの言葉。
差別に当たるのか当たらないのか?
フランスの大新聞がどう伝えているか見てみましょう。


まずはフランスで最古の新聞、平均32万部以上のル・フィガロ。

(日本の新聞に比べると発行部数が少ない印象ですが、フランスでは新聞はキオスクなどで買うもので、各家庭がとっているものではありません。)


7月5日付けの記事にはこんな記述があります。


ils tiennent des propos racistes

「彼らは差別的な話をしている」


 «Vous êtes en avance ou vous n'êtes pas en avance dans votre pays ?», ajoute encore Ousmane Dembélé, n'ayant pas peur des clichés sur les Asiatiques. 


「さらにウスマン・デンべレは『あんたらの国は進んでるのか?それとも遅れてんの?』と、アジア人についての決まり文句をためらわずに加える。」


この「決まり文句」は他の新聞でも問題にされています。

どうしてこれが差別的なのか?


フランスに住んでいても、上品な人たちとしか付き合ったことのない人にはわからないと思います。

私は不幸なことに下品なフランス人と話したことも多いので、ニュアンスが理解できてしまいます(-_-)


これはヨーロッパの一部の人が、やっかみを込めて極東アジアを貶めるためによく言う言葉なのです。

日本や韓国、中国は今や技術がとても進んでいるはずなのに、日常生活を見ると意外にそうじゃなかったりする、そんなギャップを見つけた時に侮蔑的に使う表現なのですね。


あるフランス人の知人はホンダのヴィンテージ・バイクに乗っていましたが、人があまりのそのバイクを褒めるとなぜか頭にくるらしく、


「昔はホンダって言えばすぐ壊れる安物って言われてたんだぜ。」といやらしい笑みを浮かべていました。


「進んだヨーロッパ」という過去の栄光(今だってけっこう進んでますよ、安心して!ってこれも皮肉に聞こえる?!)にしがみつき、アジアをバカにしたいとき使うフレーズだったりするのですね。


言葉って、字面だけ見てもわからないものです。


やはり32万部以上売れているル・モンドはどうでしょうか。

7月7日付の記事では


Une seconde vidéo, beaucoup plus courte, montre Antone Griezmann en train d’imiter un accent asiatique sur un ton moqueur.

「もうひとつのずっと短いビデオでは、アントワーヌ・グリーズマンがアジアのアクセントをバカにした様子で真似ている。」


7万6千部以上発行のリベラシオンは見出しに

Racisme anti-asiatique

「アジアに対する差別」という言葉を使っています。


さて、差別問題の研究に関しては、ヨーロッパの方が進んでいると思いますが、いかがでしょうか。


この炎上ビデオ事件よりずっと前、2020年にフランスが欧州選手権で敗退した時、怒ったファンが酷いツイートをしました。決定的な瞬間でシュートに失敗したムバッペに対して、曖昧さも誤訳のしようもないガチで人種差別的な言葉を投げつけたのです。


今年7月6日付のルモンドによると、この件に関してパリ検察庁が調査しているそうです。

やがて、だれがこのツイートを書いたか明らかになり、相応の償いを迫られるのではないでしょうか。


何が言いたいのかと言うと、デンべレやグリーズマンに仕返しとして度を過ぎたことを書くと、調査対象になるかもしれないということです。


思い当たる人は、即行で削除するか謝罪することをお勧めします。


いずれにしても、差別の仕返しに差別するような最低な人間にはなりたくないものです。




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フランス代表でバルセロナに所属しているサッカー選手、グリーズマンとデンべレのビデオ炎上が続いています。


SNSに投稿した謝罪文も火に油を注ぐことに。


そうなったのも当然の内容ですが、背景と実際のフランス語を押さえておかないと的を得た批判とはなりえないでしょう。


実際に、これ、誤訳なのか。


フランス人にはどう聞こえる?


例えばルモンド紙の記事では、はっきりと


「日本のホテルスタッフの外観と言葉をからかっている」


と書かれています。


フィガロ紙の見出しには


「アジア人を貶める失言」


という言葉が躍っています。


日本に出回った翻訳が逐語訳でないことは確かですが、最初英語に訳した人(誰かは知りませんが)もおそらくプロの翻訳者なわけで、ビデオの雰囲気を伝えるために意訳したのかもしれません。


(しかし翻訳者って責任重大ですね💦)


確かに、アメリカで黒人を指して使ういわゆるNワードや中国人を指すCワードに当たるような「差別用語」を使っているわけではありません。


言葉面だけ見れば、差別用語というよりは下品で不快な言葉と言った方が当たっています。


実際に彼らがビデオで言ったことを逐語訳すれば、


「汚いツラ」「くそっ、あの言葉」「あんたらの国、技術が進んでんのかい、進んでないのかい、どーなんだよ?」


となります。


確かに「後進国の言葉」なんていう表現は一言もない。

だからグリーズマンも「ぼくを本来の姿とは違うものに見せようとしている人たちがいる」と発言したのかもしれません。


ただ、「くそ、あの言葉」の「言葉」はlangueという単語を使っていて、これは日本語とかフランス語とか言うときの「語」に当たります。


文脈や話のトーンからすれば、この「くそ、あの言葉」を「全然わからない言葉」と解釈するのはちょっと無理があります。

やはり、「あの『変な』言葉」という意味だと捉えるのが自然でしょう。


最近日本では、もう公衆の面前で他の国の言語をバカにしたり、テレビで外国人のアクセントを真似してヘラヘラ笑うような輩は見かけなくなりましたよね。


もし今でもいたら、問題になると思います。


そういう意味では、やはりそこには差別があるとしか言えません。


コナミが契約解除したのは当然です。

では、私が翻訳を依頼されたらどう訳したかといえば、決して「後進国の」などという単語は挟まないでしょう。後で誤訳問題に発展するのは目に見えていますから。


さて、グリーズマンは楽天の会長兼社長に謝罪したそうですが、それだけではお金のために謝罪したと取られかねない。まずはホテルのスタッフに謝るべきでしょう。


ただ、この事件の大元を知るには、フランス社会の背景を知る必要があります。


この件に関しては、トルシエ元監督の通訳を務めていたダバディ氏のコメントがさすがに的を得ていると思います。フランス社会を本当によくわかっている人ですから。




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